今回のTEDトーク:スーパープレゼンテーションでは、”The happy secret to better work” (幸せのメカニズム)についてのお話です。ショーン・エイカー氏のプレゼンテーションは、YOUTUBEでかなりの再生回数があり、とても人気なのです。現在は、母校ハーバード大学で『ポジティブ心理学』を教える講師で、『幸福と成功の意外な関係』について紐解いていきます。
TED:スーパープレゼンテーションでショーン・エイカー氏の動画です。(約12分)字幕です。
ショーンが7歳のとき、私は妹と2段ベッドで遊んでいました。当時は私が二つ年上で、今でも二つ年上だけど・・とにかく、戦争ごっこがしたくて、妹と一緒に2段ベッドの上の段に上がりました。
ベッドの上の段で、片方の端っこには私の突撃部隊が並び、反対側には妹の馬のぬいぐるみ部隊が並び、突撃準備をしていました。
その日、何が起きたのか、幸い今日は妹が来ていないので本当のことをお話します。
妹はちょっとドンくさかったのです。私が何もしていないのに、突然ベッドの上から姿を消し、気付いたら床に落ちていました。
妹の見に何が起きたのか、恐る恐るのぞき込んでみると、妹は四つん這いになって着地していました。私は焦りました。というのも、危ないことをしちゃダメと両親から固く言われていましたから・・
何しろ、その一週間前、うっかり妹の腕を折ってしまったので・・妹を突き飛ばしたんです。見えない敵に狙われていたからです。命がけで助けたのに、お礼も言われなかった・・・
そんなことがあり、私は必死でした。ベッドから落ちた妹は、痛みと驚きで今にも泣きだしそうでした。妹が泣けば、ぐっすり眠っている両親を起こしてしまいます。
私は最悪の事態を逃れるため、小さな脳ミソをフル回転させ、こう言いました。
「お前の着地見たか?こんな風に着地する奴なんていないぞ!お前、ユニコーンなんじゃないか?」
これは、ズルい手口です。だって妹は、ケガをした五歳の女の子より、特別なユニコーンになりたがるに決まってますから!
妹の顔を見ると、葛藤しているのが分かりました。たった今経験した痛みと驚きを優先させるべきか、それとも、ユニコーンとしての新たな自分になるべきか・・
彼女は後者を選びました。泣き出して両親を起こし私にとって厄介な結果を引き起こす代わりに、ニッコリ笑って優雅にベッドによじ登ってきたのです。
足の骨が折れたユニコーンでしたけど・・
当時は全く理解してませんでしたけど、あの時私と妹は、20年後に明らかになるある心理学を実践していました。それは、ポジティブ心理学です。今日話したいテーマであり、私が行っている研究です。
こうした説明をするときに、最初にグラフを出すのは良くないっていうのが常識です。まずは、このグラフを見て下さい。これこそが、私に研究する意欲を与えてくれるもの。(平均値崇拝から逃れる方法)というグラフを見せます。
といっても、このグラフ、まったくのデタラメで・・ 会場は笑います。
これが、例えば、この会場にいる皆さんから取った本物のデータだったとしたら、論文も出版できるし、テンションも上がるのに・・ 離れたところに一つ点があるのは・・ 変わりものが一人いるってこと・・ ひょっとしてアナタかも・・
でも大丈夫。この離れた点は、消しちゃえばいい。だって明らかに異常な値だから・・ 消さないと、研究のつじつまが合わなくなっちゃう! 経済学、経営学、統計学、心理学の講義では、こう教えます。異常値、つまり変わり者は、除外してしまえ!! そうすれば、平均値が求められるからです。
でも、鎮痛剤は何錠飲むべき?というようなテーマならいいけど、人の幸せや創造性といったテーマにこのやり方を使うと、平均値崇拝を生み出すことになります。
科学者に、子供が文字を覚える速さを尋ねたら、彼らは平均的な子供が覚える速さ、という問いに置き換え、平均値に近づけようとするでしょう。
更に、あなたが平均値を下回っていると分かったら、心理学者は喜びます。もしかしたら、うつ病じゃない?って。
一つの悩みを抱えている人に、実は問題は10個もあると自覚させ、何度も通わせ、子供時代まで遡って原因を探り、正常に戻そうとする。でも、その正常とは、単なる平均値にすぎません。
平均値の研究は、所詮平均値止まりです。
一つだけ離れた点があったら、除外する代わりに問いかけるんです。なぜ、世の中には知性や運動能力、精神力で平均を遥かに上回る人が存在するのだろうか?
ずば抜けた点が何であれ、私はそれを研究したいと考えました。そうすれば、世界中の人々の平均値を上げる方法を見つけることが出来るかもしれません。
皆さんは、毎日ニュースを見るでしょ? ニュースの多くは、殺人や自然災害などネガティブなものばかり・・すると人間の脳は、世の中はネガティブなものだらけ!と思い込んでしまうんです。
これは、いわゆる医学生症候群と言われるでしょう。
医学部の一年生は、いろんな症状を学んでいるうちに、自分にもその症状があると思い込んでしまいます。
私には義理の弟がいます。名前はボボ。妹のユニコーンと結婚しました。医学生だったボボはこう言いました。
「僕、重い病気かも。」
また? どう慰めればいいんだろう・・彼は一週間続いた更年期の悩みを乗り越えたばかりだったので・・
現実は、私たちの脳によって作られています。
脳にある世界を見るレンズが、それぞれの現実を作っているのです。レンズを変えれば、世界は変わります。
私がハーバードに願書を出したのは、ダメ元でした。学費が無かったんです。ところが、奨学金が下りて入学できることになりました。
入学したとき、私は他のみんなも自分と同じようにハーバードで学べることを名誉に感じ、胸を躍らせていると思っていました。でも、そういう人ばかりじゃなかった・・
私は、卒業した後も、8年間大学に残りました。大学に頼まれたんですよ!居座ったわけじゃないですからね!
問題を抱えた学生のカウンセラーを務めていました。カウンセリングする中で、あることに気が付いたんです。
そういう学生たちが入学を喜ぶのは最初だけ。2週間も経つと、競争や勉強量、ストレスといったものにだんだん押しつぶされそうになっていくんです。
入学したての頃、地元の友人が遊びに来ました。テキサス州から遥々やってきた彼らは、学食に入るなり、こう言いました。
「ハリーポッターの映画にそっくりだね!」
確かにその通り。学生食堂はよく似ています。
ハーバード大学の学食
出典:https://college.harvard.edu/admissions/hear-our-students/student-blog/dining-harvard
彼らは言いました。
「ハーバードで幸福の研究をするなんて、時間の無駄じゃない? ここの学生が不幸なわけないだろ?!」
この質問には、幸せを理解する鍵が隠れています。
彼らは、人の幸せは環境によって決まると決めつけていますが、実際には、環境が影響するのは、幸せの10パーセント。残りの90パーセントは、その人の脳が、世界をどんな風に見るか?にかかっています。
それを変えれば、幸せや成功を導く法則を変えられるし、現実も変えられます!
仕事の成功について、IQで予測できるのはわずか25パーセント。残りは、どれくらい楽観的か?ストレスをチャレンジとして受け取れるか?などに左右されます。
ある名門寄宿学校の職員に、そう話したら、こう言われました。ですから、健康ウィークを設けて専門家に話をしてもらっているんです。月曜日のテーマは思春期のウツで、火曜日は校内暴力、水曜日は摂食障害、木曜日は不法薬物、金曜日は危険な性行為が幸せの・・
そして、私はこう言いました。公演はお引き受けします。ただし、あなた方がやっているのは、健康ウィークじゃなく、病気ウィークです。病気がないこと、イコール健康ではありません!
健康になるには、幸せと成功に関する従来の考え方を逆転させる必要があります。
私は、世界中を周り、さまざまな学校や企業と協力して研究を進めてきました。ほとんどの会社や学校がこう考えていました。
必死にやれば、成功できる!もっと成功すれば、もっと幸せになる!
この考え方は科学的に間違っています。むしろ、逆なんです。その理由は、成功するたびに、脳がゴールを設定しなおすからです。
いい成績を取れば、もっといい成績を取りたくなる。営業目標を達成したら、次は目標をより高くする。
幸せが成功の向こう側にあるなら、脳は決してそこにたどり着けない。幸せは、手の届かない彼方に。成功すれば、幸せになる!という考えに囚われているからです。
でも、実は脳はその考え方とは逆の働き方をします。ポジティブのレベルを上げれば、脳の幸福度も上がる!
ポジティブな状態、つまり幸せな気分だと、脳は遥かによく機能するんです!思考力や生産性が上がり、仕事の業績も改善されます。ポジティブな状態の脳は、ネガティブな状態の脳より、生産性が31パーセントも高くなります。
例えば、医師の場合、診断の早さや正確さが19パーセントも改善します。従来の幸せと成功の法則とは、真逆ですよね?
現状に対してポジティブになる、幸せな気分になる方法を見つければ、脳はより早く理性的に働きます。法則を逆転させれば、脳は本領を発揮するんです。
ポジティブになると、ドーパミンが出て幸せを感じるだけでなく、学習機能もオンにして、これまでと違うやり方で物事に対応できるようになります。
私たちは、脳をポジティブにする訓練法を発見しました。
2分間のトレーニングを3週間続けるだけで、脳は配線しなおされ、より楽観的によりよく働くようになります。
☆ まず、毎日、感謝していることを3つ書きます ☆
☆ 毎日、新たに3つづつ ☆
☆ それを3週間続けます ☆
すると、3週間後には、世の中をポジティブに捉えようとする考え方が身についているでしょう。
ポジティブな体験を日記に書けば、脳はそれをもう一度体験できるし、運動は、行動が大事だと脳に教えます。
瞑想をすれば、一度に複数の作業をこなそうとして発生する問題を克服し、目の前の仕事に集中できます。
最後は、意識して、親切な行動を取ること。
メールを開くたびに、誰かに感謝の気持ちを書いたメールを送るのもいいでしょう。
筋肉を鍛えるように、脳も鍛えて下さい!
これまでの法則を逆転させ、ポジティブな波を周りに広げましょう!そうすれば、世界は変わるのですから!
2006年、彼は、ハーバード大学で、当時注目されていた「ポジティブ心理学」の講師に就任し、幸せとは何かについて教え教え始めました。
2008年、世界的な金融危機、リーマンショックが起こりました。
そのとき、多くの人が考え直したのが、「幸せ」とは何か・・
ショーン・エイカー氏の考え方に注目が集まりました。
それは、成功すれば、幸せになるとは限らない。
まず、幸福感を持つことが、成功につながり、体や心の健康を維持できる。
という考え方です。